第71回:日本の大学の授業料は高いのか安いのか?
掲載日:2024年6月3日
執筆者:株式会社スクウェイブ
代表取締役社長
黒須 豊
昨今、慶應義塾大学の塾長、伊藤公平氏が中央教育審議会・特別部会の場で、東大等「国立大学の学費を150万円に上げるべきだ」と発言して世間をざわつかせている。巷では、ボンボン大学の発想だという批判や、単に文科省 に言わされているだけだ等の憶測を呼んでいる。
150万円と言うと、昨今の私立大学とほぼ同水準と思われるが、そもそも日本の私立大学の学費も妥当なのだろうか。また、外国(特に米国)と比べて安いと言われるが、それはどの程度安くて、何故安いのか。
今回は、本テーマを私なりに語ってみたい。いみじくも自分は、日本の私立大学(学士課程 )と米国の私立大学(修士課程)、さらに、日本の国立大学(博士課程)に実際に通った経験を有しており、ある程度実感を持って語ることが出来ると思う。
さて、国立大学の学費は、事実として私が東大の博士課程に在籍していた当時(2001~2004年)、年間50万円を超える改定が実施されて以来、一度も変更がないまま、現在に至り、概ね日本の私立大学の3割程度の水準となっている。他方、米国の多くの名門大学の学費は桁違いであり、私が修士課程に在籍したマサチューセッツ工科大学(MIT)の学部生の学費は年間$61,990(=9,732,430円/1ドル157円換算:2024年現在)である。
もちろん、大学によって多少の差はあるが、米国の名門校はいずれも似たような学費が必要だ。ところで、米国において、軍関係等の例外を除いて国立大学は存在せず、名門校と評価される大学の中には、州立大学は少数存在するが、大半の名門校は高額な私立大学ばかりだと考えて差し支えない。そしてこれらのトップスクールには毎年桁違いの寄付金も集まって来る。彼らは政府の補助金等にすがる必要はない。
日本の経済力が相対的に低下してきた現在において、税金で運営費の大半を賄う国立大学の現状には聊か疑問を感じざるを得ない。さらに言えば、学生の学費を抑えて、税金を大量に投入する価値が、全ての国立大学(公立大学にも当てはまる)にあるとも思えない。
150万円が妥当かどうか直ちに判断する材料を私は現在持ち合わせていないが、少なくとも、近年全く改定されていない国立大学の学費を私立大学の学費に近づけるべきだという意見に、私は全く違和感を覚えない。いや、むしろ、もっと早く値上げすべきだった。
ところで、米国の名門校の学費は相対的にとても高いが、それでも入学したい学生は世界中から山の様に集まって来る。そこには市場原理が働いており、学費を投資して期待するメリットが得られる可能性が高い大学ほど学費も高くなる傾向にある。
大学の実態として、日本は米国とは根本的に何が違うのか。国内では、私立でも国立でも、授業 中居眠りする者や、教室の片隅で授業と関係ないことをする者は珍しくない。これは実体験として、私が学生として在籍した明治大学、東京大学、さらには、非常勤講師を務めた都立大学等においても同様である。
他方、MITやHarvard等の名門校の授業では、その様な光景はまず見られない。年間1,000万円近い授業料を払っているのだから、居眠りしている場合ではないが、実際に世界的に著名な教授の授業が多く、むしろ、余分にお金を払ってでも授業や指導を受けたいと考える人が少なくない。
どの程度著名な教授がいるのか例を挙げると、私は、MIT在籍中に当時ノーベル賞受賞者3人の授業を受け、さらに、その他に当時授業を受けた2人の教授が後にノーベル賞を受賞した。結果的に合計5人のノーベル賞受賞者の授業を受けたわけだが、このような経験を得られる大学は日本国内には存在しない。
日本の大学は、授業料は安いが、その安い授業料にさえ見合う価値が無い授業がまかり通っているとは考えられないだろうか。私は、日米の大学の最大の差は、高い授業料を払ってでも真剣に授業を受けたいと思える大学とそう思えない大学の差であると考える。日本では最高峰と言われる東大においても、全てとは言わないが、世界的には見劣りする教授が、是が非でも受けたいはとても思えない授業を繰り返している現状だと考えている。
個人的には、東大や京大などの特定の大学は、国立一律の授業料ではなく、むしろより高い授業料を設定して、世界から是が非でも受けたいと思える教授をより多く招聘し、MITやHarvardに一歩でも近づく努力をすべきだと思う。国立一律の授業料という制度自体が明治維新以降の底上げ教育の思想から抜け出ていないと思うのである。
最後に、大学の利用者として学生にとって授業料(コスト)はいくらが妥当なのかは、教授の質、授業内容等に依存して大学毎に違ってしかるべきだというのが私の意見であるが、ここでは、これ以上の言及は控えたい。一方、利用者にとってのコストの妥当性という意味で、貴社にとって、ITやDXのコストはいくらが妥当なのか明確な答えをお持ちだろうか。その答えを導くお手伝いをスクウェイブは得意としている。ご興味があれば、是非、お問合せ頂きたい。