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第6回: 対談 「 経営層の一員としてのITマネジメント 」

第6回: 対談 「 経営層の一員としてのITマネジメント 」

掲載日:2004年8月16日

ゲスト:伊藤忠商事株式会社
執行役員 IT企画部長 秋光 実 氏

インタビュアー:株式会社スクウェイブ
代表取締役社長 黒須 豊


『今回は、入社以来一貫してIT部門でご活躍のゲストにお話しを伺いました』



黒須:秋光さんは業界では有名なので、多くの方はご存知だと思いますが、簡単な経歴をお話しいただけますか。



秋光:私は1973年に伊藤忠に入社しました。商社に来る人間というのは、良く言えば「融通の利く人」、悪く言えば「いい加減な人」が集まります(笑)。大学ではコンピュータも少しかじりましたが、 私も商社に来てコンピュータをやりたいとは全く思っていませんでした。大学時代は学園紛争のあおりで授業が少なく野球ばかりしていましたし。



黒須:ポジションはどこだったのですか?



秋光:左利きで2番で外野手でした。小細工をするタイプで、格好よく言うとイチローみたいな感じですかね(笑)。僕はコンピュータより人を相手にする商売がいいな、と思ったので伊藤忠に来たのに、情報システム部でSEをすることになりまして。当時は大きなソフトウェア会社はほとんどなかったので、大企業は皆、自前でシステム開発していました。うちはアセンブラ ーでプログラムを作り自前のDBMSを構築していました。例えば商社だと金利計算とかあり ますよね。いつからいつまでの金利を出せ等というマクロ命令をパラメータ式にいろいろ作 りました。



黒須:本格的なプログラマーだったのですね。



秋光:1979年まで、アセンブラーや自社製マクロ言語でプログラムを二百本程書きましたよ。そ の後はロンドンに1年半ほど駐在しました。



黒須:ロンドンでの職務は?



秋光:やっぱりシステム関係でした。戻ってきて、またシステムの仕事をやって、83年頃、急にOA(オフィス・オートメーション)をやるよう言われました。オフィスにもPCを、という時代の 流れでしたから。ところが情報システム部隊というのは、自分たちで作ることにプライドがあったので、OAに見向きもしないんですよね。OA専任組織を作るべきだと提案したら承認されて、私自身が86年までOA推進室でPC導入や社員教育を行いました。



黒須:今で言う、IT企画部の走りみたいな組織だったわけですね。



秋光:そうですね。その後は情報システム部に戻り、92年からアメリカ(NY)に行きました。当時はまだメインフレーム中心でPCは一人一台じゃなく、LANも部分的にやっているところがあるくらいで、全体として
ネットワークでつながっている状態じゃなかった。



黒須:そうでしょうね。



秋光:当時のNYのトップに最初に言われたのはこうです。「あなたが東京のシステムから来た方ですか。アメリカは日本とは全く違います。アメリカのITの使い方は日本のDP(データ・プロセシング)の世界と根本から違っています。アメリカの進んだ考え方をよく勉強していきなさい。」僕は仕事ではなく、勉強しなくちゃいけないのかと困りました。半年後、トップの方に 気付いた問題点を指摘し、自分なりの抜本的改革案を示したところ、「ITの人であなたほど わかりやすく説明してくれた人は初めてだ。私はあなたを信じるから、予算はいくらでもあげるから、思い切って全部やってください。」と言われました。



黒須:すごいですね。



秋光:ちょっと大げさなこと言い過ぎたかなと思ったのですが(笑)。それでSAPを導入することになりました。SAPの導入は商社で一番早かったんですよ。終わって98年に帰国しました。次は大阪の繊維部門で、 2000年に東京に戻ってIT企画部。



黒須:IT企画部ができたのはその時ですか?



秋光:そうです。いつまでも情報システム企画とか統轄だと 古めかしいし、時代に取り残されるということで名前を 変えました。どこでもそうだと思いますが、この頃から 管理部門を縮小する方向になっていき、運営だけでなく保守も少しずつCRCに出していきました。



黒須:今現在の体制としては、企画は秋光さんのところでさ れていて、実際の開発・運用はCRCさん。このような フォーメーションでやられているということですか?



秋光:そうですね。黒須さんのアウトソーシングやSLMの考え方も勉強させてもらって少ない人数 で上手くマネージ出来ていると思います。ただ、その他にうちの場合はディビジョン・カンパニー制になっていて、それぞれにIT推進組織があります。



黒須:ITも連邦制を敷かれているわけですが、伊藤忠グループ全体としては、従来の集中していたときに比べ、ITスタッフは全体としてみれば増えていますか?減っていますか?



秋光:情報システム部時代は一番多いときで130から140名いました。それからすると決して増えてはいないですね。今、私の所で十数名ですし、各カンパニーも合わせて50名切るくらいですから。CRC内部はちょっと見えないんですけどね。それに派遣、業務委託を含めても増えてはいないと思います。会社全体のIT経費も、単純には喜べませんが、最盛期に比べ2 割以上減っています。



黒須:コスト生産性としては非常にうまくいっているということのようですね。 ところで、私もいろいろな会社を見させていただいていますが、IT部門のトップの方には二 通りあると思います。一つは秋光さんのように、プログラミングもできるようなITの生え抜き の方、もう一方が全く他部門出身の、どちらかといえばユーザーの目を持つ方。生え抜きで あるが故の利点、または欠点はありますか?



秋光:秋光はITの立場だからそういう判断をするのだろうと思われてしまう。これが他部門から来た人が
「やっぱりITが大事だ」と言うと新鮮だし説得力がある。そこは決定的に違うと思いま す。



黒須:なるほど。では生え抜きのIT部門長さんのために、生え抜きでやってきたからこその強みがあればぜひ教えてください。



秋光:ずっとITをやってきたことに誇りを持てばいいと思いますよ。世間の流行や風潮に踊らされずITの現場を熟知していて、それを会社にどう適用すべきかを常に考え続けてきた見識に です。



黒須:自信をなくされているIT部門長さんも多いですよね。



秋光:私は昨年、幸運にも執行役員 になったのですが、役員になると周囲の見方も変わります。IT の長というだけでは、IT部だからそう言っていると思われがち ですが、役員になると、会社の経営を任されている役員団の 一人として発言しているという見方を周囲がしてくれる。そう いう意味では責任も重くなりますが、一人でも多くのIT部門長 さんが役員になれば日本の企業経営におけるITの活用につ いても変わってくると思います。



黒須:逆に言えば、経営の視点で物を語れるようなポジションの人がIT部門に来なければならな いということですね。



秋光:そうですね。もう一つ、昔、システム部に技術力はないけれど対外折衝にかけては非常に優秀な人がいたのですが、ある時他部門の人間が「彼はシステムのことはわかってない。」 と言っているのを聞いてドキッとしました。部門が違ってもわかってしまうのですね。やはりIT部門スタッフとして、総合的に力をつけなければだめなんだなと思いました。IT部門は長い間、会社経営や現場の重要なシステムに関与してきている訳ですから、その気にさえなれば単なるコンピュータのスペシャリストではなく、会社経営を判断出来る総合的な力を身につけることが出来ると思います。



黒須:全てのことに通じるのは難しいと思いますが、秋光さんはどのように勉強されたのですか?



秋光:僕は雑学派で何でも見てやってみようというタイプですから。会社に入っても仕事の合間を 縫って野球をやっていたし、組合もやった。スト権も確立させました。



黒須:当時は経営者に煙たがれていたんですね(笑)。



秋光:そうです(笑)。情報システムの人間としては明らかに異端でしたが、若い頃いろいろやった おかげで、社外含め人的ネットワークを作ることができました。自身の経験から、若い人には出来るだけ外に出て他流試合をさせるようにしています。



秋光:部内ではどうやって人を育てていくかが重要ですね。他の会社と違うかもしれないけど、人を育てるのはキャリアパス(ローテーション)なんです。いくら座学でやっても限界があります。若手は最初の1年は部内で基礎をやり、その後は3年くらいのタームで3つくらい他部門を経験させます。ローテーションの中に開発・運用の現場は必ず入ってきますし、カンパ ニーのIT推進組織で実際に営業と一緒に商売を取ってくるためのシステムを作る。海外の 支店にも行く。事業会社に出向してそこのシステムも担当させる。



黒須:フィールドをたくさんお持ちですから、そこは総合商社の強みですよね。



秋光:一番の悩みは人のパズル(人事異動)です。昔は100人位いたから、どこかの事業会社に人を派遣してくれと言われてもどうにでもなりましたが、今は直属の配下は十数人しかいま せんからね。



黒須:なるほど。人事のマネジメント以外で苦心していることはありますか?



秋光:各ディビジョン・カンパニーがあるので、IT企画部が担当しているのは全社の基幹となるようなシステムとかインフラ系です。各カンパニーが自分本位で部分最適なシステム開発すると、あとから全体の効率が悪くなるということで、ITアーキテクチャを作り、これに沿って 開発・運用してもらっています。連邦制を維持するには必須だと思います。



秋光:それと今すごく力を入れているのはセキュリティですね。うちは6月にようやく情報管理規定 ができました。ITについてのセキュリティのガイドラインも盛り込みました。今後はこういった 規定作りとスタッフへの周知徹底が大変になりそうですね。社員だけでなく派遣社員の方、業務委託先、グループ事業会社など実効をあげる為には継続的な強化策の実行・レビューが必要だと認識しています。



黒須:その辺は経営者の一員としての秋光さんならではできるところなんでしょうね。 ところで秋光さんは今でも野球をされているのですか?



秋光:IT企画部のチームでやっていますよ。 僕の背番号は51番。イチローとランディ ー・ジョンソン、どちらをイメージしている のかよく聞かれますが、どちらでもない。 実はユニフォームを作ったときの僕の年 なんです。もう50過ぎたから、年相応の 野球をしようと(笑)。頭ばかり使う仕事じ ゃないですか。だから頭ばっかり疲れる 。頭使ったら体も使って、体全体バラン ス良く疲れて眠ると回復しやすいと思う んです。頭だけ疲れている状態で休んで もなかなか回復しないと思いませんか?だから週末はなるべく体を動かすように しています。



黒須:本日はお忙しい中、ありがとうございました。



『今回はご多忙の折、秋光氏にお時間を頂戴しました。ありがとうございました。』

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