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第54回:祝 住宅金融支援機構の脱メインフレーム化完成

第54回:祝 住宅金融支援機構の脱メインフレーム化完成

掲載日:2018年2月20日

執筆者:株式会社スクウェイブ
代表取締役社長
黒須 豊

※以降、法令上、実名の登記公開義務がある経営者を除いて、イニシャルのみで記載させて頂く。但し、故人については、生前の功績を称える意味からも実名とさせて頂く。また、今回は、やや長文になるがご容赦頂きたい。

今回は成功事例を1つ紹介させて頂きたい。私が独立行政法人住宅金融支援機構(以降、機構)のCIO補佐官の職責を得て3年になるが、先日、機構において投資額数百億円の最大規模プロジェクトである、“総合オンラインシステムサーバ化”が、見事に、2018年1月から納期遅れ無しでカットオーバーを迎えることが出来た。このプロジェクトは、機構の基幹システムを脱メインフレーム化して、サーバ化するプロジェクトであり、機構トップの理事長を本部長として、3年以上に渡って推進してきたものである。

この成功は、第一に機構職員、とりわけ終始冷静にユーザーPMの職責を果たしたIグループ長、さらに、プロジェクト後半に事実上の指揮を執ったY室長の熟練のマネジメントが功を奏したと言えるだろう。

そして、最高責任者として、毎月本サーバ化推進本部を引っ張った加藤理事長、安齋副理事長(当時)、池谷CIO理事(現副理事長)、等、経営陣が一体となったサポートを提供し、かつ、歴代の各情報システム部長(4名、うち1名は現理事CIOの小日向氏)が、サーバ化を担当した主なベンダーであるTIS社やHS情報システムズ(以降、HS)社を有効かつ効率的にマネジメントしたことが、大きな成功要因と見て間違いない。そして、これに応えた両ベンダーの働きも高く評価に値するものと言えるだろう。

先日、「総合オンラインシステムサーバ化推進本部」の公式会合最終回が開催された。CIO補佐官として公式の推進メンバーであった私も、加藤理事長から直々に過分のお褒めの言葉を頂いた。また、機構サイドに立って、プロジェクト進捗のリスクマネジメント等を担当したのはガートナー社である。ガートナー社は私もかつてリサーチ・ディレクターとして籍を置いた会社であり、共に、今回の成果に貢献出来たことを誇りに思う。

加藤理事長から過分のお言葉を頂いたついでに、僭越ながら、1点だけ強いて私自身の貢献を挙げるとすれば、マルチベンダー・マネジメントの困難さの中で、複数ベンダー間、及び各ベンダーと機構の媒体的な役割を多少は果たすことが出来たものと考えている。

TIS社は今回のアプリケーション開発部分を担当し、HS社は現行の運用ベンダーとして補完協力する関係にある。プロジェクト自体が両社の協力体制を前提としていた。

しかし、単純に考えて、現行の運用業者であるHS社から見ると、メインフレームからサーバ化するアプリケーションを他社であるTIS社が開発する作業を支援するメリットは基本的には無いだろう。現行の運用業務に精通しているHS社が諸々情報を提供しなければ、TIS社単独で業務は完結しないが、開発工程で一番儲かるのはTIS社である。HS社としては、面白くないのは当然だ。

そこで、諸々協力する作業自体を含めた業務を機構は調達して、HS社はそれを受託している。つまり、机上の計算上は、齟齬は無い様に見える。

しかし、調達仕様書は、曖昧さを完全に排除した上で、全てを網羅することは困難である。実際にプロジェクトを進めて行くと、両社のどちらの役割とも断定できない内容が表面化することは稀ではない。そして、「先方が何をしてくれない」とか、「そんなこと言っていない」とか、「認識が違う」など利害がぶつかり、意見が一致しないことが頻発する。それが常識であり、今回のプロジェクトも、一時は、正にその典型的な状況にあった。

これは、元々は政府に責任がある。政府が分離調達を促進し過ぎた弊害である。分離調達すればするほど、実は発注者サイドのオーバーヘッドは劇的に増加する。大規模な案件は1社を調達して、その後その1社をマネジメントするだけでも決して簡単ではないが、今回、本プロジェクトのために、機構が分離調達した件数は片手の指では収まらない。ほぼ両手分と言っても過言ではない。

開発業務を受注したTIS社からすれば、調達時の仕様書に沿って入札が実施され、公平に落札した案件である。本来、入札で開示された仕様書通りの履行が求められるし、逆に、仕様以外のことは、建前上履行する義務はない。TIS社からすれば、仕様通りの履行を仮に妨げる要素があるとすれば、機構に対して仕様書に沿って条件を整えて欲しいと考えることは、ある意味自然である。特に、もう1つの主要ベンダーであるHS社は現行運用ベンダーとして、機構とは深く長い関係を築いている。TIS社から見ると、自分たちだけがよそ者扱いされているという印象を持っても不思議ではない状況にあった。

私がCIO補佐官として就任直後、ベンダー間の軋轢状況は、率直に表現して、最悪であった。良くありがちなことではあるが、公式のステアリング・コミッティにおいても、ベンダー同士の意見は、責任の擦り付け合いと言われても仕方ない状況を呈していた。機構としても、人員体制も十分ではなく、必ずしも各ベンダーを完全にはコントロール出来ていない状況は誰の目にも明らかであった。

ただし、サーバ化を現場で進めるユーザーPMの立場にあった機構のIグループ長は稀に見る優秀な人材である。常に冷静で、かつ、かなり深いレベルで現場を把握し、忍耐力も兼ね備え、全体を取り仕切る卓越した能力を有している。彼の様な稀有なPMがいてもなお、ベンダー間の関係は限界に近いレベルにあったのである。

私がCIO補佐官になって、かなり早い段階で機構の情報システム部長職の異動人事があり、唐津氏が就任した。唐津部長が就任して早々、本プロジェクトについて、彼から私が明確に依頼されたことの1つが、ベンダー間の軋轢解消に向けて知恵を貸して欲しいというものであった。

私は中立的な立場の特性を活かして、相当程度、各ベンダー責任者(各社とも、代表取締役)らと会合を重ねてきた。とりわけ、開発を担当したベンダーであるTIS社の西田副社長は、かつて、西田氏がクオリカ株式会社(コマツ製作所の情報関連会社)の社長時代にスクウェイブ社のSLRを利用頂いていたご縁もあって、比較的懇意にさせて頂いていたことは幸運であった。

西田氏は、直ちに、私の提案(共通ゴールである納期にカットオーバーするために、HS社とのコミュニケーション環境を改善するために、私や機構に協力して欲しいという趣旨)を快く受け入れてくれた。それ以来、西田副社長、同社のT常務執行役、Y執行役員らとは毎月個別の会合を重ねてきた。必要に応じて、彼らの本音を機構やHS社に伝えると共に、時には、機構の真意を見誤らない様に、僭越ながら忠告申し上げることもあった。

同様の話は、HS社の古川代表取締役社長や代表取締役CTOの野村氏とも行い、特に野村CTOとは、お身体の状態が芳しくない時期もあったにも関わらず、重ねて個別の会合のお時間を頂いた。元々、野村CTOは高度な専門知識を有した優秀な技術者としての知見を有しておられ、様々な点で適切な情報交換をさせて頂き、私の提案に対しても、極めて真摯にご対応頂いた。TIS社とのコミュニケーション改善に向けて、特にTIS社のY執行役員らと協議を開始してくれた。

私が、TIS社とHS社両社に繰り返し説いたことは、とにかく、共通のゴールに向けて、現場レベルも経営レベルもコミュニケーションを密にして一体感を醸成して欲しいということであった。私は、TIS社には、機構及びHS社が問題と感じている点を翻訳し、HS社には、主にTIS社が問題と思っている点を翻訳して、都度、互いの問題意識を互いの共通課題として昇華させる作業に腐心した。

経営レベルでは、両社とも私の考えにご理解を頂けた。そこで、次に、各レイヤーでの飲ミニュケーション代を経営層に持って頂いた上で、あえて、現場レベルだけ(つまり上層部同士は参加しないことと、機構職員も参加しない)で会を頻繁に開催することを提案した。これは、直ちに実行され、一定の効果を上げることが出来た。これは、日本の民間企業の商習慣では良く採用される施策であるが、実は今回も大変有効な施策であったと考えている。

現場レベルで、開発担当チームと補完する立場にある現行運用ベンダーの担当チームの連携を円滑化し、共同体的な意識醸成を狙ったものである。実は、日本人の大半は、心理学者マクレランドのスリー・ニーズ理論の中でNeed for Affiliationを最も渇望することが分かっている。Affiliationに対する欲求とは単純化して言えば、所謂、仲間意識のことである。元来多くの日本人は仲間を大切にしたいと思うし、仲間からの期待には応えようと思う性質を普遍的に有していると考えられる。俗に村意識と言う言葉がある通り、身内は大事にするが、よそ者には冷たい風習が、もしかしたら、多くの日本人のDNAに刻み込まれているのかも知れない。彼らにとっては、同じ仲間同士と思えるどうかによってチーム連携の成果は著しく異なって来るのである。

結果的に、ステアリング・コミッティでの罵り合いに近い不毛な議論は無くなり、プロジェクトはそれ以前に比べたらかなり順調に進む様になった。このマルチベンダー間の媒体的な役割を果たすことが出来た点だけは、元は唐津部長の依頼に応えただけなのだが、我ながらうまく行ったと考えている。

次に、これは、私は提言しただけで、全ては唐津情報システム部長(当時)の成果であるが、特筆すべきこととして紹介したい。かつてベンダー間の関係も最悪であり、彼らを必ずしも100%コントロールし切れていない機構職員の人員体制も決して盤石ではなかった。私は、池谷CIO理事(当時)や唐津部長に、結合テストに入る前までに、機構職員の人員体制を強化すべきであると何度も強く提言した。結合テスト以降の進捗をリアルタイム(少なくてもデイリーで)で機構職員自身が把握し、部長が都度直ちに判断できる状態を構築すべきだと強く説いた。

聡明で責任感の強い唐津部長は私の趣旨を理解してくれた上で、池谷CIO理事(当時)らと相談の上で、概ね私の提案に近似する方向で人員強化に向けて動いてくれた。私は、ユーザーPMであるIグループ長の負担を軽減するために若手を数名追加することと、唐津部長の片腕になるようなエース級を少なくても1人は補充すべきだと説いた。もちろん、私は提言をしたのはここまでで、詳細のフォーメーションを私が考えたわけではない。唐津部長と池谷CIO理事(当時)らが構想したものである。私は単に考えるきっかけを提供したに過ぎない。

しかも、唐津部長は自らが病気療養に専念しなければならい時期に差し掛かり、その身の処し方は誠に見事としか言いようがないものであった。実は、このことが、翻って本プロジェクトの大変大きな成功要因の1つとなったものと私は確信している。

あの時点で機構情報システム部の人員増強が全く無かったら、その後発生する諸々の難題に対して迅速な対応は断じて出来なかったであろう。単に現場の人員数が強化されただけでなく、唐津部長が自ら退くにあたって、当時総務人事部長であった小日向部長(現CIO理事)が情報システム部長に招聘され、その補佐として、当時外部へ出向中であったY氏が機構に戻り、室長としてY氏が情報システム部長を補佐する役割に任じられた意義は大変大きかった。私は“エース級”が1人必要だと進言したのだが、唐津部長は正に“エース”を引っ張ることに成功した。

私が客観的に見て、Y室長は機構の情報部門において正にエースそのものである。Y室長は、全体的に曖昧さの残るマスター・スケジュールを洗練させるダイレクションを執行すると共に、機能及び非機能検証などにおいて数々の適切なレビューを行い、課題を明確にする見事な裁き役を担った。
その後、Y室長が拘った本番稼働後の逆並行検証プロセス計画のお陰で、正に本番稼働直後の重大インシデントに発展する可能性が高かったデータ移行上のミスを大きな問題となる前に発見することが出来た。Y室長の狙い通り、正にドンピシャの効果を発揮した。Y室長の計画を実行していなかったら、おそらく、私は、今日この原稿を書いていないだろう。

このような抜群の体制を構築できたことは、唐津部長の功績であると思う。彼は正に命がけで理想の部長交代劇のシナリオを描いたのである。無論、唐津部長が退くことを見越した彼の案に応えた池谷CIO理事(当時)ら経営陣の功績も大きいことは言うまでもないが、当時、池谷CIOが呟いた一言が今でも忘れられない。“唐津さんは本当に段取りが上手だ”である。

誠に残念ながら、大功労者である唐津氏はサーバ化完成を待たずに帰らぬ人となってしまった。享年54歳の彼と私は同い年生まれであり、私にとっても人生の中でも忘れることが出来ない衝撃的な別れとなった。今回、彼の遺志を継いだ機構職員が納期通りサーバ化を完成させたことは、彼にとって、せめてもの花向けとなったのではなかろうか。卓越した才覚を発揮した唐津部長と、一緒に仕事をする機会を得たことを心より光栄に思うと同時に、改めて彼の冥福を心からお祈り申し上げたい。

今後の展望についてであるが、今回の機構のプロジェクトは正に巨大プロジェクトであり、一定の成果を上げたが、実態として、純粋に脱メインフレーム化したこと以上の付加価値は、実は現在はまだほぼ何もない。つまり、サーバ化したメリットを享受できるのかどうかは今後の発展に掛かっているのである。機構職員、是非、さらなる高みを目指して邁進して頂きたい。

最後に、今回の例を含めて成功するプロジェクトの多くは、関わった当事者の“何としても成功させたい”と思うモチベーションに依存する部分が少なくない。やる気を無くせば、人は決して金だけでは動かない。日本人がAffiliationの欲求を渇望する人が多いことは前述の通りである。

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是非、読者諸兄の職場においても、試してみて頂きたい。

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