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第39回:対談「新薬に特化したグローバルビジネスを支えるIT」を追求するコーポレートIT部長が最も大切にしていること

第39回:対談「新薬に特化したグローバルビジネスを支えるIT」を追求するコーポレートIT部長が最も大切にしていること

掲載日 : 2010年12月24日

ゲスト : アステラス製薬株式会社
コーポレートIT部長 重富 俊二 氏

インタビュアー : 株式会社スクウェイブ
代表取締役社長  黒須 豊

黒須:本日はよろしくお願いします。まず、社会人になってからの簡単なご経歴からうかがってもよろしいでしょうか?



重富:1978年に工学部を出たのですが、文系枠として旧・藤沢薬品※に採用されました。(※アステラス製薬は、2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生した会社です。)営業に従事するはずでしたが、社長室(現・経営企画部)の方が一人退職したらしく、急遽そこに配属されることになりました。社長室では、年度計画、中長期計画、広報、秘書など、幅広い業務がありました。そこで5年程、中期計画に携わった後、経理部に異動し、予算管理を担当しました。



黒須:若い頃に、まさに中枢を経験されたのですね。



重富:で、その後からが面白くてですね、組合の専従になりました。



黒須:ご自分で希望されたのですか?



重富:いえいえ・・・そういうわけではありません。さっき社長室で辞めた人がいると話しましたが、その人が組合の役員もやっていたのです。だからかどうかはわかりませんが、入社2年目から、実は支部の役員をやっていました。それでとうとう、87年に専従になったということなのです。

後半の4年間は委員長をやっていました。それから、専従ではなかったですけど、合化労連(正式名称:合成化学産業労働組合連合)の副委員長も務めました。当時は私も若かったので、本当に、揉まれましたよ。特に合化労連はベテランの方も多くて・・・。



黒須:重富さんは以前から、人材育成の重要性を強調されてきていますが、労組で大変な経験をされてきたことも関係しているのでしょうか。



重富:おそらくそうです。労組時代に、「結局、最後は人なんだ」と強く感じましたから。例えば「アステラス製薬として検討させていただきます」とか、「コーポレートIT部としての考えを出します」と言っても、別に組織が考えるわけではなくて、その組織にいる人が考えるのですよね、結局のところ。だからやっぱり、最後は個人に落ちる。



黒須:なるほど。ところでどのくらいの期間、専従だったのですか?



重富:10年間です。これでも短い方なのですよ。それまでの労組専従の方々はもっと長くやられていて。だからもう、私たちの時代で変えようといって、これでも短くしたのです。労組専従では得たものも大きかったし、きっと、失ったものも大きかったと思います(笑)。



黒須:失ったものがあるのですか?



重富:ありますよ!「時間」です。労組専従だったのは、まさに働き盛りの35~44歳でしたからね。例えばこの時期に海外に行っていたら、やっぱり違っていたでしょうね。良かったのかどうかは別ですけど。だからまあ、これで良かったと思っているんですけどね。思わざるを得ない(笑)。労組専従の後は経営企画部に戻り、ビジョンや中期計画のロールアウト、事業の絞り込み等を担当しました。



黒須:ITに関係するようなこともされていたのですか?



重富:ITは直接は関係なかったですね。経営企画の立場で、ITを含む事業の子会社化、工場の分社化、執行役員制の導入といったことをやっていました。当事は、「いや~ITはなんでこんなに金がかかるんですか」などと言っていました(笑)。



黒須:その後、情報システム部に来ることになったいきさつは何だったのですか?希望されたのですか?



重富:いきさつは、私が一番聞きたいくらいです。ある日突然、ITやれと言われましたからね。おそらく、私が「もっと効率良く出来ないのか」などと言っていたから、「じゃあ、あなたがやってください」ということになったのでしょう。



黒須:それで、快く引き受けたのですか?



重富:もちろんです。関心がない分野ではなかったですし。



黒須:なるほど。では次に、IT部門としての、もしくは重富さんとしての展望や今後の課題について、お話いただけますか。



重富:やはり「ITのグローバル化」が、アステラスの中でも、今の日本のITの中でも、非常に重要な課題になっていると認識しています。最終的な目的は高品質のITサービスを適正なコストでビジネスサイドに提供していくことですが、それをやろうと思うと、グローバル化は避けて通れないのです。ですから、かなり強力に進めて行きたいと思っています。



黒須:御社では既にグローバル化を進めていらっしゃいますが、その際、強い反対意見は何かありましたか?



重富:グローバル化に関して、総論で反対はなかったですね。ただ、個別のテーマに移ったときに、誰が(どの極が)リードするんだとか、どのアプリケーションを採用するんだとか、リソース問題をどうしてくれるんだ、とかですね、細かい話はしょっちゅうありましたし、今でももちろんあります。



黒須:そういう揉め事が出たときに、どのように説得してコンセンサスを得ていくのか、是非教えていただきたいです。リーダーになられる方は、その辺に長けていらっしゃる方が多いと思うんですよね。何か秘訣みたいなものがあれば是非。



重富:秘訣とまで言えるかどうかわかりませんが、やっぱりコミュニケーションだと思っています。コミュニケーションをとるということ=合議制ですから、それぞれの局面でのスピードは落ちますが、結局、物事の実現ということまで含めて考えるとその方が早い、ということを実感として持っています。めざす姿や「最終的な意思決定は自分がする」ということははっきりさせた上で、日本/海外のスタッフの意見を聞く。で、良いと思えば採用する。そういうやり方が必要なんじゃないかと思います。



黒須:部下の言うことは大体わかっているからと、意見を求めることなく物事を決めてしまう方もいますが、重富さんとしては、皆の意見をよく聞き、よく会話することに腐心されたということですね。



重富:これがある意味、日本的なガバナンススタイルだと思います。



黒須:海外の皆さんとはどういうスタイルですか?スタイルは国別に変えたりするのですか?



重富:多少は変えますけれども、このスタイルについては、今はかなり認知してもらっています。GCC(Global CIO Committee)というのがあるのですが、合併当初は国を持ち回りで、年4回開催していました。例えばアメリカに行くと、トップ同士の話、それからかなり厳選された人たちと話しますけれど、現地のITのメンバーともコミュニケーションをとります。そこで、我々アステラスITのガバナンススタイルというのはこういうものなんだ、これが我々のカルチャーなんだということを説明してきました。ヨーロッパでも同様です。それをもう、3年間くらいずっと続けました。最後の方になると、「もうオマエの言うことはわかったから」って(笑)。一緒に遊びにも行きましたし、海外のメンバーにも恵まれましたね。



黒須:それは良かったですね。



重富:はい。彼らは日本のビジネススタイルを理解してくれました。アメリカのITヘッドだった人なんかは、最後には「長期的なベンダーとのコミュニケーションは重要だ」と、言い出しましてね。



黒須:アメリカ人っぽくないですね(笑)。

それでは次に、御社の、あるいは重富さんのことで、アピールされたいことがあれば、お話いただけますか。



重富:日本発の医薬品企業には、色々ありますが、それぞれ微妙に経営スタイルが違うと思っています。例えば新薬だけでなくOTC(Over the Counter)医薬品とジェネリック医薬品を持っている会社、ジェネリックはそんなにやってないですけれども、新薬ビジネスとOTCを持っている会社もあります。そんな中で、アステラスは新薬ビジネスだけに特化した製薬会社なのです。今、残念なことに薬が効かない病気に対して、効果がある新しい薬を作ることが、やっぱり患者さんにとってものすごく大きなことですから、ここに賭けているのです。経営的には、ジェネリックやOTCのように、ある程度安定したところの上に新薬があるのではないんですよね。



黒須:完全に新薬一本なんですか?



重富:完全に一本です。これはアステラスの特徴であり、私は好きなんですよ。潔さが。



黒須:まさに集中と選択ですね。



重富:こだわり、ですね。



黒須:リスクはありますよね。



重富:だから、そういうカルチャーに対応したITがあるはずです。私は、会社の中のシステムを一つのものとして見るのではなくて、成長戦略にフィットするシステムと、それから、基幹系などの効率化、人の代わりになるようなシステムと、分けて考えないといけないと思っています。面白いことに、例えば創薬の仕組み(システム)は、人の代替にはならないんですよ。あくまで人の支援なんです。システムは過去のロジックであり、その積み上げに過ぎない。だけど人間というのはすごくて、過去のものから上に突き抜け出たときに新薬が生まれるのです。システムと人の融合があってビジネスが生まれる、今、システムは、人に気付きを与えるとかですね、その辺にもっと移行するべきではないでしょうか。それが今のアステラスのシステム全体の動きであり、独自性ではないかと思います。



黒須:新薬に特化した独自の経営スタイルにある御社は、そこに見合ったITを目指しているということですね。



重富:そうです。ただ、そういったアステラスは特殊なので、部下には「他流試合」を勧めています。自分達の組織やシステムを当たり前だと思ってほしくないし世界は広い。私自身、すごく他社の人と意見交換するんですよ。



黒須:なるほど、わかりました。非常に勉強になりました。
次に、ちょっと話題を変えまして、重富さんの趣味や、休日の過ごし方についてお話いただけますか?



重富:趣味というほどではないのですが、昔から遺跡のあるところに行くのが好きなんですよ。学生のときに最初に行ったのがインド、パキスタン、アフガニスタンです。2ヶ月間くらい、しかもバックパッキングで。それで病みつきになりました。



黒須:今まで行かれた国の中で、どこが一番オススメですか?



重富:面白いなと思ったのはトルコとモロッコですね。それからイスラエルのエルサレムは、絶対行くべきだと思います。三大宗教の聖地、エルサレムは雰囲気が重いんですよ。重いんだけど、すごい。歴史の重さみたいなものを感じます。向こうの人たちの考え方や思いの全て理解できてではありませんが、実際に現地に行ってその土地の臭いを嗅いでみると、中東情勢の複雑さや何故そこが聖地なのか、何か理解できたような気になります。



黒須:なるほど。



重富:だから、若い人が色々と見聞きするのは大事だと思います。そういう思いもあって、昨年、三人にインドのITマネジメント研修に行ってもらいました。それで急にITのグローバルマネジメントができるようになるなんて思った訳ではないんですよ。それよりも、自分達の知らない文化とか、自分達と違う考え方を持った人と一緒に働くということを知ってほしい。インドにもスラムがあって、そこで生活する人間がいる。彼らも、直接的ではないにしても、ITを使うわけですよ。そういうことを理解して仕事しているのか、それとも与えられたことだけをやっているのかによってね、もう全然違うと思っているわけです。何ていうか、仕事人間以前に、やっぱり生身の人間としての魅力を持ってほしいと思いますね・・・ちょっとキザですね(笑)。



黒須:カッコイイです!
次に、今後の重富さんの夢、もしくは人生のゴールは何ですか?



重富:そうですね、私は、先ほども言ったように、最後はやっぱり「人」なんだと思ってきましたし、それはもう今では確信に変わってきています。成長したいという願望は基本的に誰もが持っていると私は思っています。だから、個々の人間の能力を引き出すようなことをやっていきたい。もう、それしかないですね。別にITの人間だって、特殊なわけじゃないですよ。やっぱり、ビジネスができる人はITもできる。ITができる人は他のビジネスもできるんです。



黒須:非常に貴重なお話をありがとうございました。
最後に一言、ホンネを言うとやってられない・・・といったことがあればお願いします。



重富:やはりトップにはITの位置付けをもっと理解して頂きたいですね。こちらがうまく説明できていない責任もあるかもしれませんが、ITと言ったとたんに「よくわかんないし、任せるよ」と言われることがあります。使うお金についても任せて頂ければいいんですけどね(笑)。



黒須:なるほど(笑)。差し支えないように言うとすると、社内でのITの位置付けの向上ということですか。



重富:そうですね。それから、私はIT=ビジネスパートナーにすることを目指しています。ビジネスパートナーであれば、本社に近い所(=日本)に置く価値がありますよね。逆に会社のトップや業務部門のビジネスリーダーが“ITはそこそこ効率が良くて安価なものでいい”という認識であれば、ITを日本に置く必要はなく、インドとか中国に移した方がよっぽどいいと思っているのです。そういうことを日本企業やIT部門はもっと意識すべきだと思います。ITベンダーについても同じような事が言えると思います。グローバルな視点や体制を持てないITベンダーは苦しくなってくるんじゃないでしょうか。日本のベンダーとユーザー企業が手を取り合って、ズズズッと世界の中で沈んでいく絵は想像したくないですね。



黒須:日本全体の将来を心配されているということですね。



重富:ここのところ中国の台頭もあって、グローバルアプリケーションの日本語対応が後回しにされるケースが増えてきているように思います。日本を単なる数量としてのマーケットとして見ると、シェアの低下は避けられないと思います。しかし、IT品質とかITのビジネス応用力とか、日本市場の独自性にもっと注目して、世界の中での日本の地位を確立すべきだと思います。もう、日本の中だけを相手にしていればそこそこやっていける時代ではないですよね。

別に海外に出ないといけないという意味のグローバル化ではないですよ。そうではなくて、グローバルな視点で、例えば今どんなアプリケーションが世界のどこにあって、何がビジネスに適しているかを提案できるベンダーであり、評価できるユーザーじゃないといけないと感じています。日本の中だけを見て、これを使うとコスト何%削減できますよ、といった考えは勘弁してほしいです!



黒須:わかりました(笑)。


本日は長い時間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

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