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第38回:「現在のクラウド・コンピューティングは中途半端」

第38回:「現在のクラウド・コンピューティングは中途半端」

掲載日:2009年10月29日

執筆者:株式会社スクウェイブ
代表取締役社長
黒須 豊

さて、今回は既に巷でバズワードになっているクラウド・コンピューティング(以降クラウドと表記)について私見を述べたい。昨今、クラウドについては、諸説紛々、百花繚乱と言う感じであるが、実態は果たしてどうなのか。巷の声としては、期待する声の反面、アプリケーション・レベルについては、SaaSの焼き直しか、あるいは全く同じものであることが多いし、PaaS(またはHaaSやIaaS)などはハードウエア・レンタルと根本的に何が違うのかわからないという意見も少なくない。

私は、今年の春から夏に掛けて、弊社顧客30社のITの責任者の方々と直接お話をさせて頂き、クラウドに関する意見交換を実施してきた。訪問先の内訳は、国内大手ユーザー企業のCIOクラスの方々、またはユーザー企業のITをメインで面倒見ているIS子会社の社長である。具体的に何処の企業かと言えば、弊社SLR参加企業がその大半である。このような方々との対談において、明確に感じたことは以下のとおりである。

1.ユーザーはクラウドの可能性を否定はしないが、未だにリサーチ・モードの企業が大半である
2.ベンダーはサービスを開始しているとする企業も多いが、実態としては本当に儲かるのか実は疑心暗鬼に感じている人が多い

以上の意見交換を踏まえつつ、私なりの私見を述べたい。ところで、今回私がクラウドに関して述べる私見は、今現在の私見である。当然ながら、クラウド自体も時間の経過と共に進化していくので、半年後の評価はその時点で変化することがあり得る前提で以降をご覧頂きたい。

<黒須豊のクラウドに対する私見>
(1)現在言われる大半のクラウド・サービスは、従来のSaaSモデルなどそのものか、部分的なリソースをレンタルモデルで貸し出すサービスの簡単な焼き直しにすぎない。

(2)強いて特徴を挙げれば、WEBベース、つまり、特定のハードソフトを利用せずにインターネット経由でインフラレベルからアプリレベルまでITサービスに必要なものほぼ全て(しかもディスクなどはある程度動的に)の提供を受けることができる点を挙げることができるが、これも、従来(少なくても過去数年前)から実現できたものを改めて再認識させたという意味以上の意義は見当たらない。

(3)結論として、現在展開されるクラウドは従来のサービスと一線を画するような代物ではない。また課題も少なくはない。例えば、機密データを社外に置きたくないという意見は一部の企業に根強いものが見られる。これに対しては、プライベート・クラウドという概念もある。しかし、これは(プライベートの度合いにもよるのだが)、基本的に概念自体がナンセンスだと思う。なぜなら、クラウドはコンピュータ・リソース全体をユーザーから抽象化(仮想化)するからこそクラウド(雲)の向こう側にあるという意味であり、リソースが論理的にプライベートに用意されるならば(何らかの形でDedicatedなリソースが特定し得るならば)、曇りどころか快晴で人工衛星が何処にあるのかまで見えそうである。

また、真面目な話しとして、クラウドによるリソースの抽象化は、持たざる経営を指向する企業経営スタイルに合致するものであるが、その真髄は、いかなる時代もbest of breedを選択し続ける権利を留保することにある。Dedicatedになっては、その権利さえも制約を受けることに成りかねない。

では、どうなるのが理想なのか、あるいは、今後どのような展開が期待できるのか。私なりの考えはこうだ。

<理想のクラウド>
まずは、ローカルな環境に比べて相対的に劣る可用性や機密データ保全ということについては、一層のテクノロジー的な進展が求められるだろう。そのうえで、私が最もクラウドに期待もするし、また、おそらく、そうなるだろうと思っていることは次のとおりである。













それは、クラウドがコンピュータ・リソースを高次元に抽象化することが進展すると、いずれ、アプリケーション自体の抽象化を深化させ、ひいては、アプリケーションの部分的な要素分解を促進することになることである。誤解を恐れずに言えば、クラウドは、いずれ、ITサービスを機能単位のレベルに分解し、ユーザーは、その機能単位でサービスを利用することになるということである。

例えば、現在LotusNotesをクラウド形式で仮に使えるとしたら、基本的には本来自分が全く使わない機能まで含めてLotusNotesソフトウエアの全ての機能全体に対して費用負担を求められるし、当然ながら、全機能を使えるようになる。将来は、これが、自分が使いたい機能だけを抜き出して、その機能単位に課金されて使えるようになるだろう。これが何を意味しているかと言えば、これまで、ユーザーは、LotusNotesを選ぶかMS-Exchangeを選ぶかというソフトウエア・パッケージの選択を迫れることが多いが、将来は、機能単位で各々の良いとこだけ、例えば、スケジューラーはNotesの一部の機能で、メーラーはExchangeの一部の機能というような機能の選択が安価にできることを意味している。これは、とどのつまり、ソフトウエア・パッケージという概念をユーザーから抽象化することを意味しているのである。

当然ながら、違うソフトウエア・パッケージの一部の機能を抜き出して使うのだから、各々を有機的かつ効率的に併用できるような工夫が求められる。ソフトウエアのライセンスの問題もある。ライセンスは現在まではパッケージ単位であって、機能単位ではない。その差をクラウド・プロバイダーがどのように吸収するのか、あるいは、ソフトウエア・メーカー自体がそのような体系を構築すべきなのかまだわからないが、先に対応したメーカーが優位に立つことになるだろう。いずれにしても、そのようなサービスを展開することが将来のクラウド・プロバイダーには求められるし、それが出来るか出来ないかでこの市場の淘汰が進むだろう。

以上、外層的な私見を述べたが、限られた字数で、私の予測の全貌をお伝えするには限界がある。是非、興味をもたれた方は弊社までご連絡頂きたい。今後5年のITサービスは正に変革を遂げようとしている。是非、一緒に次の時代に適した戦略を共に構築しようではないか。

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