第34回:「サザエさんの街に流れる時間」

第34回:「サザエさんの街に流れる時間」

掲載日:2008年8月21日

執筆者:株式会社スクウェイブ
カウンセラー&マーケティング エグゼクティブ
相澤 香

スクウェイブ本社所在地(2008年当時)にも程近い、世田谷区桜新町。ここは知る人ぞ知る、あの長寿アニメ「サザエさん」の舞台である。駅前商店街は「サザエさん通り」と名づけられ、近くには長谷川町子美術館(URL: http://www.hasegawamachiko.jp/)もある。
かの古きよき昭和の家族の日常は、平成の今日も奇跡的にTVの中に生き残り根強い人気を誇っているが、それにしてもさすがにもはやノスタルジーでしかない、と思われることもいくつかある。
そのひとつが、波平さんとマスオさんの普段の帰宅時間。磯野家ではごく普通に家族全員が毎日の夕食の食卓にそろっているし(推定時刻7時頃?)、舅と婿の二人はよく、その夕食前に帰宅途中の屋台で一杯やっていたりする。現代のサラリーマン家庭ではかなり実現困難な暮らしだろう。
労働時間の変化は統計にも現れている。
総務省が7月3日公表した2007年の就業構造基本調査によると、年間の就業日数が200日以上の雇用者(役員を除く)のうち、労働時間が週60時間以上の人は12.7%で、02年の前回調査に比べ0.8ポイント増加した。全体の1割強が1日あたり4時間以上の時間外労働をしている計算。正社員男性で見ると、ほぼすべての年代で週に60時間以上働く人の割合が増加している。

出典:総務省「平成19年度就業構造基本調査」('08.7.3.発表)
これはほんの5年間での変化であるが、サザエさんの時代から見れば(データがないのでわからないが)猛烈な変化が起こったであろうことは想像に難くない。しかし、近頃多くの職場に漂う疲弊感は、ただ単に労働時間の長さだけの問題だろうか?
7月24日付の日経新聞夕刊に「職場は過剰覚醒 失われる息抜き時間」と題した記事が掲載された。お読みになった方も多いことと思う。
精神科医・野田正彰氏へのインタビュー記事であったが、要旨は、

・21世紀に入ってから、職場で「ぼーっとする」「ほっとする」時間が消えうせて、過度な緊張状態が延々と続く 働き方が広がった結果、帰宅しても過剰覚醒が続き眠れないなどの症状を引き起こす人が増えている
・ビジネスの世界では効率を追求し時間の無駄を排除し続けてきたが、人が幸せに生きるとはどういうことか きちっと考えて働くスタイルを再考すべきときに来ている

というもの。過剰覚醒のケースは情報分野のサービス業に多い、という気になる指摘もあった。
さらに、4日後の7月28日付日経新聞夕刊記事には「夏休みも “仕事接続”」というものも。無線LANなどの通信インフラの進化により、夏休みの旅行中もPCや携帯電話で仕事と「常時接続」する人々が増加している。オン・オフの境界線はますますあいまいになるばかりだ。
どちらの記事も、自分も含めた身近な世界に起きていることとして実感を持って読んだ。そして思い出したのは、世界的ベストセラーとなった児童文学「モモ」(ミヒャエル・エンデ著)である。
風変わりな少女モモがたった一人で時間泥棒に挑む物語は、現代社会への鋭い批判を含む名作として名高い。時間泥棒「灰色の男たち」は、巧みな論理で大人たちに効率化を訴え時間を節約させるが、実は彼らは節約したその時間を盗みとり、冷凍し、乾かし、葉巻にして吸うことによって生きる連中なのだ。時間を盗まれている当の大人たちはしかし、被害者である認識はまったくなく、自ら合理性を追求することを善しとして必死で工夫を重ね、働き続け、その結果人の心も街も灰色に荒廃していく。
原著は1973年発表なのですでに35年が経っているが、「これは自分の住むこの街・この時代のことではないのか」という戦慄は、今も新鮮に胸に迫る。
実際に時間泥棒を消滅させたのはモモの大冒険によるお手柄であったわけだが、それよりも重要な事実として、時間泥棒にとっての最大の脅威は「モモとの対話によって人々が自分の中に答えを見つけ自分を取り戻すこと」であった、ということに注目したい。人々の心に内在する「気づき」こそが力なのである。
私たちスクウェイブは、「独創的な気づきを喚起する」ことをビジョンとする会社である。顧客企業のコア・コンピタンスは組織の中こそ存在し、そこに組織自らが気づき可視化していくことが組織の本当の力の源泉になると私たちは確信する。そしてその気づきをもたらすためには、知識の押し売りではなく「注意深く聴き対話するカウンセリング」が必要である。モモのように、外界の小さな変化も敏感に感じ取り、注意深く、純粋に、聴いて受け止めることのできるカウンセラーでありたいと思う。
古きよきサザエさんの街に、灰色の男たちはまだ現れていなかったのに違いない。しかし現代の日本で、世界で、彼らの暗躍は著しいようだ。この現実の私たちの世界にモモその人はいない。しかし、誰にでも備わっているはずのモモの「武器」、つまり外界への感受性や他人への共感を誰よりも磨いていくことで、少しでも幸せに力を貸せる存在になりたいと願っている。

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