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第22回:「仕事に必要な緊張感」

第22回:「仕事に必要な緊張感」

掲載日:2006年10月4日

執筆者:株式会社スクウェイブ
CS推進室長 中島 由香里

「 謙遜のし過ぎは最大の自惚れ」これは、先日、久しぶりに会った昔の上司から言われた言葉である。誰しも謙遜することは必要であり、大切である。しかし、それが度を越えると嫌味であるばかりか、もし本人が本当にそう思っているなら、現実を知らない人、客観性に欠けている人に映ると言う。この言葉にはかなり衝撃を受けたと同時に、その上司の下で働いていた時の緊張感を思い出した。

職場環境にも仕事にも慣れ、先輩や同僚をはじめ周囲の方とのコミュニケーションもうまく取れるようになり、ある程度のイレギュラー作業なら難なくこなせるようになって、仕事が面白くなり始めたころ、異動で上司が前述の上司に代わった。作業が順調に進んでいるときに限って、いつも、その上司は「仕事に慣れ過ぎるなよ!」とでも言わんばかりに難題を課してきた。しかも、その難題には大抵タイムリミットがあり、すぐに対応しなければならない作業がほとんどであった。時にそれは、抜き打ちテストのこともあり、平和に過ごせるはずだったその日(場合によってはそれからの数日間)は、“頂いた難題”のおかげでスリリングな1日あるいは数日となり、必然的に仕事に集中せざるを得なくなった。

最初のころは、急に振って沸いたような難題への対応に戸惑いと焦り、不安でかなり緊張した。頭と身体をフルに活動させてやっとなんとか時間内に終えられる難題に取り組んでいる最中にも、その上司は涼しい顔でプレッシャーをかけ てきた。このようなことが何度か起こると、次第に難題を課せられるタイミングを察知できるようになり、大抵その嫌な予感は的中した。

そのころになると、難題が来ても最初のころのような戸惑いや焦りはなく、 むしろ、少しワクワクした感じに似た、程よい緊張感を持ちながら仕事ができた。そして、難題を課せられたにもかかわらず、以前よりも仕事に対するモチベー ションも上がり、積極的にいろんなことに取り組めた。

学生から社会人、ある企業から別の企業など、新しい職に就いた時には、新たな環境や仕事に対する期待と不安でいっぱいである。また、個人差があるにせよ、誰しもしばらくの間は緊張感を持って新しいことに取り組んでいる。しかし、良いか悪いかは別として、この緊張感はそう長くは続かない。多くの人は、新たな環境や仕事に慣れるにつれ、いつの間にか最初のころの緊張感を失ってし まう。

日々仕事をする中で、これといって大きな変化はなく、ルーティン化した作業をこなすにはそれほど神経を使わなくても、特別な注意を払わなくても作業はできる。

緊張のし過ぎはマイナス要素になり得るが、適度な緊張感を持って仕事をすることは重要だと思う。むしろ、慣れ過ぎてしまうことの方が危険である。その弊害として、新しいことへの挑戦や受容が妨げられるということがある。また、何よりもミスを犯しやすくなる。

では、適度な緊張感を保つにはどのような方法があるか。その 1 つとして「確認」という作業が考えられる。惰性的に確認業務を行うのでは意味がないが、第三者による確認や指差し確認、あるいは目で見て、声に出して、耳で聞いて行う確認作業は、業務に集中するという意味では緊張を保つ1つの方法だと思う。

昨年 12 月に起 こったみずほ証券による誤発注は、まさに緊張感の欠如による出来事ではないか。使用しているシステムには改善すべき点があるかもしれないが、最初の誤入力、その後コンピュータ画面に表示
された警告メッセージの無視、というのは適度な緊張感を持って業務に集中してさえいれば、防げたミスだ
と思う。

常に適度な緊張感を保ちながら日々の業務に取り組んでいる人はどれくらいいるだろうか。このことは、あ
る意味、新しいことを始めるよりも、また慣れるよりも、数倍難しく、大変なことだと思う。まして、誰かに刺激されてではな く、自ら意識的にそうすることは非常に難しく、なかなかできない。

社会人になって○年が経つが、維持することの難しさを最近改めて実感している。明日からは、また気を引き締めて業務に取り組もうと思う。

前述の上司に会った日、その上司を見送った後、「あぁー、相変わらず、緊張したね!」と同時に友人 3 人が言い、顔を見合わせて思わず吹き出した。 10 年以上経った今も、パブロフの犬は私だけではなかった
ようだ(笑)。

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