第2回:対談「IS子会社の実態」
掲載日: 2004年6月15日
ゲスト: 東芝インフォメーションシステムズ株式会社
代表取締役社長 小柳 順一氏
略歴: 株式会社東芝本社IS部門の部長を経て、
2002年7月より現職、
2005年4月より東芝ISセンター長兼務
インタビュアー: 株式会社スクウェイブ 代表取締役 黒須 豊
『今回は、IS部門とIS子会社のトップとしての経験をお持ちのゲストにお話しを伺いました』
黒須:小柳さんは以前は東芝本体のIS部の立場でISという業務を見てこられて、次にIS子会社 で、プロバイダーとしてユーザー部門にサービスを提供するという両面をやってこられていますね。東芝本体にいた時から、ISはプロフィットセンター的な運営をすべきだとのお考えをお持ちでしたが、IS子会社社長になられて、その考えに変化はありましたか?
小柳:考えは変わらないよ。むしろ強くなった。子会社になってからの方が当然、損益を考えない といけなくなったからね。会社として利益をあげていくのが当たり前なんだけど、社員と話すと、利益を生み出すことに対して驚くほど意識が低い人がいたりしてビックリすることがあ る。「IS部門イコール、スタッフ」として仕事してきたから、サービスを最少のコストで提供するという滅私奉公が当たり前、それが美徳なんだという考えが拭い去れていない。サービス を提供したら適正な対価をもらって当然という意識に、なかなかなりきれない。
黒須:IS部門内でプロフィットセンター化しようとする企業もありますが、利潤追求を考えないスタッフの意識を変えることが大変難しいと、本体を出てより実感できたということですね。
小柳:そのとおり。前は見えなかったものが見えてきた。もしIS部門が一つの組織だったら見えて いたかもしれない。でも東芝の場合は社内カンパニーがあり、個々にIS部門が存在していた。だから見えなかったというのがホンネかもしれない。
黒須:IS部門にいたときと現在では、どちらがやりやすいですか?
小柳:今のほうがいいよ。それでもなかなか皆を動かせない。社員のmind revolutionができない限り、本当の変革はできないと思っている。社員は提供すること(滅私奉公)がすばらしいと思っているけど、それは違うでしょ。
黒須:親会社へ貢献しつつ、一企業として利潤を追求するということは、やはり外販を目指すということですね。
小柳:もちろん。外販はやらなきゃいけないと思っている。
黒須:単純な滅私奉公とはかなり違ったベクトルになりますね。IS部門をプロフィットセンター化することは難しいことが見えるようになった上で、意識改革するためにやっていること、やっていきたいことは何ですか?
小柳:今いろいろ画策中。例えば、初めての試みとして、会社に貢献した社員に金一封を渡している。
報われる機会を与えれば変わっていくんじゃないかと思って。
去年の7月はクルーザーを一隻借りて、全社員で船上パーティをした。当時はこんなことにお金をつかうなら売価を下げて親会社に還元すべきという声もあった。でもそれは間違っていると思うんだ。約束をした分はきちんと返さなきゃいけない。ただ、それ 以上に頑張った部分はこの会社の将来のための投資に使ってもいいじゃないか。複数のIS部門が1つになって出来た会社なので一体感の醸成は必要だし、人が財産なので教育投資も必要。誰も居ない事務所の蛍光灯がつけっ放しになっているのは無駄だが、こうした お金の使い方は無駄だとは思わない。
今年は社員会(全社員が会員)に何をしたいか提案させているわけ。だんだんすごい金額の提案が出てくるようになってね(笑)。そういうことを本人たちが言い出したってことは、彼らの意識が徐々に変わってきていることだと思う。下からの思いが感じられる。他にも色々と 画策中だけど、やっぱり一番大事なのは魅力的な仕事を与えることだよね。それがもう究極の施策。
黒須:能力のある人たちにどう報いるかは、どこの企業でも考えていると思いますが、1000人規模の会社で社員全員にどう報いるかを社長自らが考えているところはそうそうないと思い ます。
小柳:儲かったら使えということだね。ただし、無駄なお金は1銭たりとも使うべきではない。
黒須:
ところで業績はよろしいみたいですね。
小柳:うちはかつての日産みたいに危機的状況じゃないけど、現場の人たちがコストダウンを地道にやってくれている。おかげで親会社に対する約束は十分果たしているし、将来に対する投資にも振り向けてい
る。
黒須:コストダウンは徹底されているようですね。あとは積極的に利益をあげていこうという意識変革を
いい意味でも悪い意味でも、危機的状況にない環境で行わねばならないということですね。
小柳:そういうこと。これは難しいよね。今の中堅、若手とも自身の問題というよりは会社の問題、自分とは直接は関わりのない問題として捉えている。彼らは与えられる文化の中で育ってきたから。自分が何かしなくちゃいけないとは思ってない。東芝という大きな会社の中にいると、特にスタッフ部門にいると、どうしてもそうなってしまう。
黒須:「滅私奉公の文化」と「与えられる文化」はセットということですね。
小柳:そう。社員の多くが単に与えられた中で一生懸命がんばればいいと思っている。でも権利は、成果を出して自ら獲得するものだということに気づいて欲しい。
黒須:自ら魅力的な仕事を獲得していく努力が必要なんですね。
小柳:いつも言っていることだけど、コストダウンだけというのはありえない。1000人の雇用を確保しなきゃいけないからね。やっぱり売上を伸ばさないといけない。当然のことなんだけど。問 題なのは何で売上を増やすかということ。いつも黒須さんが言っているとおり、コンピテンシーをどこに持つかってことだよね。IT会社だからといってITをストレートに見るだけじゃだめ、斜めや裏から見ないと。違った角度から見ればいろんなビジネスチャンスが転がっている ことに気づくはずなんだ。それを見逃している。どうしてもストレートに見ちゃう。あと、いろんな経験がビジネスにつながるってことになかなか気づかない。
黒須:宝の山が眠っているかもしれませんね。
小柳:それは第三者じゃないと指摘しづらいのかもしれない。
黒須:外部の意見、内部の意見両方が必要なんですね。
黒須:ここでちょっとテーマを変えます。現在、日本の大企業はだいたいIS子会社を持っていて、子会社抜きに企業のIS機能は語れない時代ですね。IS子会社を運営していく上で大切な ことは何ですか?
小柳:うーん、難しいねえ。一つあるとすれば、僕達はいろんな制約の中でやっているけど、制約を制約
と思っちゃだめだよね。やはりそれを糧にしないと。
黒須:親会社との制約は大きいのですか?
小柳:そりゃ大きいよ。子会社としての役割が決められているからね。しかし親会社の制約を糧にする努力というのは、別会社になったからこそできる部分がいっぱいあるということなんだ。別会社になったということは、経営を任せられたわけだから、社内環境や仕事の与え方、もっと言えば、余程のことがない限り何でも(別会社の)経営陣の思い一つでどうにでもなるんだよ。親会社の顔色ばかりうかがって、何もしないようじゃだめ。経営陣にとって制約はチャレンジ(challenge)であって、困難(difficulty)じゃない。
黒須:各IS子会社の経営陣の責任が大きいということですね。IS子会社の社長が、怒られる覚悟 を持つかどうかということですね。
小柳:僕はそう思っている。それに、怒られることはまずない。経営陣がいろんなことに対してい かにチャレンジしていくかが大事。別会社にしたということは思うとおりにしていいってことで しょ。経営権を与えられたんだから。僕はそう思っている。思うとおりにやらなきゃ別会社になった意味がない。だから僕みたいなのが社長を任されたんじゃないかな(笑)。
黒須:次に小柳社長の個人的なことについて伺わせてください。休日は何をされていますか?
小柳:いろいろやっているけど、週末のファーストプライオリティはソフトボールの審判だね。5月 から11月にかけて、地域の大会や市民大会など試合がたくさんあって忙しい。面白いことに、審判とIS業界は似ているところがあるんだよ。
黒須:そうなんですか!?
小柳:審判はきちんとやって当たり前で、誰も誉めてくれない。IS業界もそうでしょ。ミスジャッジすると野次が飛ぶのと同じように、コンピュータが止まったら怒られる。間違えずにやって当たり前。そういう環境で仕事してきたから、誉められなくてもなんとも思わないし、どんな野次にも耐えられる。だから審判もできるんだろうね(笑)。僕は審判が耐えられる体質になっているんだ・・・。
黒須:なるほど!(笑)。
『今回はご多忙の折、小柳氏にお時間を頂戴しました。ありがとうございました。』