第15回:対談「敢えてノウハウを自動化しないシステム」

第15回:対談「敢えてノウハウを自動化しないシステム」

掲載日:2005年1月21日

ゲスト:川崎汽船株式会社
常務取締役
株式会社ケイライン システムズ
代表取締役社長 久保島 暁 氏

インタビュアー:株式会社スクウェイブ 代表取締役 黒須 豊

『今回は、ブラックボックス化しないシステム作りを目指す久保島氏にお話しを伺いました。』



黒須:まずは入社後のご経歴を簡単にお話しいただけますか?



久保島:最初にコンピュータ室に配属になった後、横浜の現場店に行き、営業などやっていまし た。その時に経理のことも知らないとビジネスマンとして一人前にならないなと思い自分で志望して経理部門に行きました。現場店でも経理でもコンピュータの仕事をやってい ましたね。その後アメリカに行って営業統括、プロジェクトリーダーをやりました。帰国し て、本当はシステム部門でないところがよかったのですが、情報システム室に戻ってしまいました。そして現在に至るという経歴です。



黒須:学生時代はコンピュータ関連の勉強をされていたのですか?



久保島:いえ、法律でした。ただ、私が入社した頃(昭和46年)、叔父が放送会社に勤めていまして、これからはコンピュータを知っていた方がいいから勉強しておけと言われたので、卒 業前にコンピュータ関係の本を2、3冊読みました。入社式が終わった後、昼食会があっ たのですが、私の前に人事部長、その隣にコンピュータ室長が座っていたんですよ。そ の時、よせばいいのにコンピュータ室長にいろいろ質問しちゃったんです(笑)。どういうことしているんですか、とか、コンピュータでこういうことはできるんですか、とか。多分、 それでマークされてしまったのだと思います。



黒須:そうだったんですか。コンピュータについて、入社されて初めて学ぶことが多かったと思い ますが、大変でしたか?



久保島:自分でも驚いたのですが、割と向いていたんだ と思います。面白かったですね。高校時代は電子工学を専攻しようと思っていたのですが、原子力潜水艦の問題や佐世保の入港事件を見て、これは政治を勉強せねばと思い、受験する学部を急遽変更したんです。だからコンピュータに興味がなかったわけではないんですよ。



黒須:会社によってCIOの位置に来られる方が、IS部門を経験された方がなる場合と全く違う部門から来る場合がありますが、 御社の場合は比較的ISを経験された、つまりITのプロの方が担当役員をされることが多いのでしょうか?



久保島:実はコンピュータをやっていた人間が役員になるのは私が初めてなんです。それまでIS 部はどちらかというと、盲腸的というか、“あってもなくてもいい”という感じの部門だったと思うんです(笑)。最近、ITで会社の足腰が強くなることがわかってきて、IT系の役員がいた方がいいということになったのだと思います。



黒須:通常の社員としてITを見てきたのと、役員になられてからITを見るのとでは、何か差はありますか?ITスタッフにとっては非常に興味があるところだと思うのですが。



久保島:立場による差はないと思います。私の方針でもあるのですが、うちの会社の文化として、会社のためになることだと思えば部門を越えて言い出しっぺが実行するという雰囲気があります。私はシステム部のスタッフ時代から、部門・上司の枠を越えてプロジェクトを進めました。例えば、新しいパッケージを導入する際、ユーザー部門とケンカしながらお金がかかるカスタマイズをせずに仕事のやり方自体を変えたりと、かなり強引でしたね(笑)。コスト削減、事務の効率化等、会社の方針に合致するために何をすべきかを考えてやってきました。



黒須:すごいですね!



久保島:ただ、最近は人間が丸くなったというか、柔らかい対応を心がけています。営業部門に 出かけていって、彼らのニーズを理解した上で、経営課題がこうだからこうした方がいいという提案をしてから動く感じですね。



黒須:次に御社の子会社を含めて、ITの体制について教えて下さい。ITのスタッフは何名くらいいらっしゃるのですか?



久保島: 本社には10人弱ですね。ここで企画、予算、コスト関係の仕事をしています。100%情報子会社に約130人いまして、私はそこの社長も兼任しています。あとはアメリカ東海岸にも情報子会社がありまして、そこは総勢60人です。



黒須: 東京を中心に、グローバルな形でITのガバナンスをやられているということですね。



久保島:グローバルなプロジェクトはできる限りアメリカでプ ロモートしています。やはりアメリカの方が最新の IT技術とコンセプトがありますので。本社マター、指針は東京で決め、技術的な検証をして実行するのはアメリカです。



黒須: それは珍しい体制ですね。



久保島: 全部アメリカに移してしまった方が良いのかもしれませんが、会社全体の方向性や指針は本社で決めますので、やはりIT部門も同じところにあった方がいいでしょう。



黒須: それはそのとおりですね。 次に、ITの仕事関係で成功談と失敗談をお話しいただけますか?



久保島: やはり一番インパクトが大きかったのはダウンサイジングですね。私がシアトルに行って いる頃、300人を動員する巨大プロジェクトをやっていました。基幹業務システムを書き換 えて、アメリカと日本のメインフレーム2つをほぼリアルタイムでシンクロさせようというプロ ジェクトで、すごくお金がかかったのですが、これをやっている最中に出たWindows3.1を 見て、もうメインフレームの時代じゃない、こんなことをしていてはダメだと思い
ました。せ っかく作ったシステムだけど、メンテナンスにすごくお金がかかるし、維持するのは至難の業
だからもうやめましょう、オープン系のプラットフォームに変えてコストを下げましょうと いう趣旨の論文を書きました。当時システム関係のコストを削減する方法はないかという 課題が出ていたので、提案した
ところ、お前がやれということになりました。大金をかけた プロジェクトを完成直後に捨ててしまったわけ
ですが、2年で元は取れましたよ。大変だったけれどやり甲斐はありました。



黒須: すごく大きな決断をされたわけですね。当然、反対の声も上がったと思いますが、論文を 書いて
説得材料としたのですか?



久保島: そうですね。ただ、その頃の船会社はどこも経営環境が悪く、何かしなくてはいけないという空気はあったんです。あっちこっちでコスト削減、人を切る、海外に出て行くという 動きがありました。そんな環境だったので、皆さん話を聞いてくれたんでしょうね。



黒須: わかりました。では次に失敗談があればお願いします。



久保島: うーん、けっこうあるので迷います(笑)。以前プロジェクトで、自分達である程度要件を定義して業者さんに開発を頼んだことがあるのですが、できあがってきた中身のパフォーマンスが悪い、言ったとおりの仕様になってない、不満だらけというのがありました。若手 の育成ということで、自分で細かい仕様までマネージをしないで任せたんです。その時のやり方がまずかったなぁと反省しています。ポイントでチェックはしていたのですが、実際に踏み込むタイミングが遅れてしまったんです。ダメージがけっこう大きくて、やり直しになってしまったんです。手痛かったですね。



黒須: 失敗を経験しないと育たないということもありますよね。後進を育てることは大事ですが、大きな損害を会社に与えるのは困るわけで。上司はどういうタイミングで踏み込めばいいので しょう?  



久保島: 自分がイメージするプロジェクトの進捗と部下の行動を照らし合わせて、おかしいなと思 ったら踏み込むのがいいのかなと思います。あとはスタッフの顔色を読むことでしょうか。  



黒須: 顔色ですか?



久保島: 難しいのですが、人それぞれ特徴がありますよね。いつものしゃべり方、自信があるときのしゃべり方、ないときのしゃべり方。それから受け答えのタイミング、目の動き。「おはよ う」と挨拶したときのチーム全体の雰囲気。そこで、あれ、なんとなくうまくいってないんじゃないかなと思ったら「どうした?」と声をかけるとか(笑)。



黒須: 微妙なポイントですね。でもそういう事が大事なのかもしれませんね。次に、会社として、今後どういうふうにITを活用していきたいと思っていますか?



久保島: 基幹業務のシステムは、そこそこう まく動いているので大丈夫だと思っています。ただし、今まではなるべく お金をかけずにガマンできるところは根性で何とかしてきました(笑)。 それが一つの会社の文化でもあるわけですけど、今後は足腰を強くしていくという面で、もっと厚みのあるシステムを作っていきたいです。



黒須: 具体的にはどういったことですか?



久保島: 例えば、コンテナ管理は、人間が動きを見ながら最適配置します。これを人間の頭だけでなく、ITも使って科学的にアプローチして、もっと良い最適化をみつけたいですね。データベースのエンジンで最近ものすごく高速なものがありますから、そういうのをうまく使って、ぱっと分析してディシジョンメーキングできるといいですね。 あとは、企業文化を後進に伝えられるような仕組みを作りたいです。業務ノウハウはシステム化が進むとブラックボックス化してしまいますよね。



黒須: ITを使うことで文化が断絶することがないようにしていきたいということですね。非常に面白いテーマですね!確かにシステム化=自動化ですので、人間の手が介在する部分が減ります。人間のノウハウがコンピュータを入れることによってむしろ断絶してしまうような事態に陥ると非常に問題ですよね。



久保島: 開発担当者には、ある業務システムを作る際、ノウハウとして残しておいた方が良いと思われる部分については、わざと機械化するなと言っています。ボタンを押したらあとはコンピュータ任せというのではなく、ポイントになる部分ではわざと機械化しない。



黒須: わざと人間の判断を入れるようにするのですね。



久保島: そういうことを考えながらシステムデザインをして行きたいと思っています。もちろんユー ザーは全自動を欲しがりますから、なかなか難しいんですけどね。



黒須: すごいことですね!非常に興味深いお話しを伺いました。最後に久保島さんの趣味について聞かせてください。休日はどのようにお過ごしなんですか?



久保島: 休日は家族サービスかな。女房について買い物に行ったりします。仕事柄かもしれませんが、デパートで商品の原産地を調べるのが好きです。これが意外と面白いんですよ。 あとは女房と安くて美味しいお酒を探すのが楽しいですね。



黒須: いいですね。特に好きなものはなんですか?



久保島: 最近は女房がシャンパンに凝っていて、いろいろ買って飲んでいます。やっぱり高いものが美味しいということがわかってきました(笑)。



黒須:本日はどうもありがとうございました。



『今回はご多忙の折、久保島氏にお時間を頂戴いたしまし。ありがとうございました。』

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