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第66回:「チャーリー・マンガー氏を偲ぶ」

第66回:「チャーリー・マンガー氏を偲ぶ」

掲載日:2023年12月21日
執筆者:株式会社スクウェイブ
カウンセラー
和田 柊平


 11月末の午前6時頃だっただろうか。その朝はとても寒かったのを覚えている。スマートフォンでニュースをチェックしていたところ、速報でチャーリー・マンガー氏の訃報に接した。氏は投資会社バークシャー・ハサウェイ(以下バークシャー)で、ウォーレン・バフェット氏の右腕として副会長を務め、プライベートでも親友であったという。99歳とはいえ、今年に入ってからも精力的に活動していただけに、その衝撃は大きかった。「巨星墜つ」との感懐を抱いた。私が尊敬する投資家として、心から安らかな眠りをお祈り申し上げたい。

 バークシャーといえば、緊急事態宣言もようやく終わったばかりの2020年夏、日本の五大商社の株式をそれぞれ約5%取得したと公表したことが記憶に新しい。そして今年も商社株の買い増しを行っているほか、商社以外の日本株への投資も検討していると聞いている。思えば、バークシャーによる商社株への投資は、日本株に対する見直しが始まる大きなきっかけだったのではないだろうか。実際に、2020年夏には23,000円前後だった日経平均株価が、今年は33年ぶりの高値を付け、現在(2023年11月末)では33,000円付近で推移している。日経平均株価の上昇は日本経済全体の復活への第一歩だと考えている。改めて、感謝の意を表したい。

 ところで、バークシャーが投資判断において重視しているものに、「堀」がある。これは簡単にいえば競争優位性や顧客をつないで離さない力のことである。「参入障壁」と言い換えてもよいのかもしれない。

 まさに「堀」を象徴している一例をご紹介したい。「ペプシ・パラドックス」をご存じだろうか。これは、ペプシコ社がマーケティングのために実施した、ペプシコーラとコカ・コーラのいずれがより美味しいのかを消費者に投票してもらうというものである。その結果、目隠しでペプシコーラとコカ・コーラ社の製品の飲み比べを行ったところ、多くの消費者がペプシコーラの方がコカ・コーラより美味しいとしたのにもかかわらず、ブランド名を明らかにした際には消費者はコカ・コーラに投票したというものである(余談だが、この実験結果を公表したところ、実験会場となったテキサス州ではペプシのシェアが拡大したそうである)。すなわち、購買商品を決定する上で重要と思われる味覚における満足度ではペプシコーラの方が上回っているのにもかかわらず、なぜか多くの消費者はペプシコーラではなくコカ・コーラを買ってしまうのだ。

 この有名なパラドックスは、しばしばブランド論において引用される。すなわち、コカ・コーラがブランドイメージを確立しているため、さまざまな企業がコカ・コーラ風の清涼飲料水を開発したとしても、シェアを奪うことは容易ではないのである。そしてこれこそが、コカ・コーラ社が長らくバークシャーの主力投資先の一つであり続けた理由の一つである(このほかの主力投資先には、例えばアップルやマクドナルドなどが含まれている)。

 このような「ブランドイメージ」のほかにも「堀」には様々な形態がある。そのいくつかを簡単に説明しよう。

 「技術・ノウハウ」:優れた技術やノウハウを有している企業を模倣することは容易ではない。特許を無許可で模倣することは犯罪であり、ライセンス生産するにしても生産側はライセンス収入を得られる。あえて特許を取得していないケースであっても、コカ・コーラそれ自体の製法は世界で数人しか知らないと言われており、いまだ模倣できていない。なお、「技術・ノウハウ」には有形のもののみならず、営業秘密のような無形のものも含まれる。
 「法規制・許認可」:バンク・オブ・アメリカがバークシャーの投資先に含まれている理由はこれである。ミルトン・フリードマンは、ほとんどの場合において参入規制は競争から既存企業を保護する効果を有すると述べている。
 「規模の経済・ネットワーク効果」:コロナ直後に原油価格はマイナスに転じたのにもかかわらず、バークシャーの主力投資先には石油会社が含まれていた。油田開発は巨額の設備投資が必要なためそもそも容易に新規参入できないのである。
 「ニッチ」:バークシャーの投資手法から影響を受けた日本人バリュー株投資家の間では、SHOEIという企業が人気である。SHOEIはバイク向けの高級ヘルメットメーカーであるが、市場規模が限られているため、大企業にとっては参入するうまみが少ない。
 「スイッチングコスト」:あなたはなぜExcelやWordを使っているのだろうか?きっとExcelやWordが大好きだからではないだろう。むしろ、ExcelやWordに慣れていることや、他のソフトがExcelやWordとの互換性がないことなどがその理由ではないだろうか。このように、多少の不満があっても乗り換えることが困難な場合、ユーザーはその製品やサービスを使い続けなければならない。

 さて、読者の皆様におかれては、「堀」に絡んだ以下の二点についてぜひこの機会に考えていただきたい。

一点目は、いかに「堀」を築き上げ、競合他社に対する優位性を確立するかである。もちろんこれは簡単な話ではない。しかし、その突破口を開くものはDXであると私は確信している。たとえば、製薬業界ではAIを活用した新薬開発が進展しつつある。 新薬を1つ開発するためには平均10年といわれる時間と平均1000億円といわれるコストがかかるが、薬事承認され新薬が実用化されれば「堀」ができあがり、薬害事件さえ起きなければ特許切れまでの間は大きな収益を得ることができる(新薬を一つ開発に成功するだけで株価が数倍に膨れ上がることもあるのがこの業界である)。そこで、各企業とも、他社より一秒でも早く薬剤を開発するために、AI技術の導入合戦を行っているのである。具体的には、AI技術を用いて可能性の高い化合物の分子モデリングや、自然言語処理技術を用いた電子カルテデータの分析や論文検索などが行われているそうだ。なお、こうした取り組みは始まったばかりなので実績は上がっていないものの、将来的には4年もの時間を短縮し、コストも半減させることが可能なのではないかと期待されている。

もちろん、製薬業界は極端な事例かもしれない。とはいえ、製薬以外の業界でも、DXを推進し、顧客とのコミュニケーションの深化や競合他社にはない自社だけのデータの収集を図ることで、自社製品や自社のサービスの差別化や付加価値の向上につなげることは可能であろう。

二点目は「ベンダーロックイン」である。特定ベンダーの独自技術に大きく依存した製品やサービスを採用すると、他のベンダーの提供する製品やサービスへの乗り換えが困難になる現象がそれである。バークシャー流に言えば、スイッチングコストという「堀」を構築しているのだ。企業にとって、売り手の側に立つ限りにおいては、「堀」の構築は安定的な収益確保や成長を意味するため積極的に目指すべきことである。しかし、 買い手の側に回った場合、特にそれがスイッチングコストの高さに由来するのであれば、「堀」は悩ましいものとなる。不満があったとしても他社に乗り換えることは困難なため、巧みにベンダーマネジメントをしなければ、開発・運用費用などが高額になり、サービス品質の低下を招いてしまうのだ。

改めて問おう。貴社のDX戦略は、正に貴社の「堀」構築に役立つものとなっているだろうか? AIに投資した結果、他社が簡単に真似できない製品やサービスの開発や導入に繋がっているだろうか?DX戦略を有効に進めるためのベンダーマネジメントはできているだろうか?真のDX戦略実現を希求するなら、是非、スクウェイブにご連絡頂きたい。

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