第35回:対談「トステムのIT機能を担当するISスタッフの業務改善とモチベーション向上」

第35回:対談「トステムのIT機能を担当するISスタッフの業務改善とモチベーション向上」

掲載日 : 2009年1月30日

ゲスト : ITインフォメーションシステムズ株式会社
       (現・株式会社LIXILインフォメーションシステムズ)
       代表取締役社長 佐藤 方厚 氏

インタビュアー : 株式会社スクウェイブ
            代表取締役社長  黒須 豊

『今回は、生産技術の分野を専門にされてきた佐藤氏にお話を伺いました。』



黒須:まずは、学校を出られて最初にやられた仕事から経緯を教えてください。



佐藤:私は工学部の機械科卒でして、トステムの前身である東洋サッシ工業に入社してからの25年間は一貫して生

産技術の仕事に携わってきました。現場(工場)で生産技術の改善を行い、本社の生産技術部でネタを仕込み、また現場で改善・・といった感じです。体は完全に生産技術屋に染まっていますね。



黒須:生産技術をやられていたのはご希望だったのですか?



佐藤:はい、そうです。



黒須:ある意味25年間、自分の好きな仕事をやってきたというわけですね。その後、生産技術とはちょっと毛色が違うITにこられた経緯をお話いただけますか?



佐藤:私は昔から「機械屋」でしたので、たとえばFortranとかマイコンといったものが好きでよくいじっていて、当時の上司も「あいつはそういうのが好きだ」ということを知っていました。ちょうど2000年頃に三次元CADだとか、デジタルエンジニアリング系が流行っていた時、社内でなかなか担当できる人がいなかったらしく、私がストンと決まってしまいました。



黒須:当時はいわゆる情報システム部というのはあったのですか?



佐藤:ありましたよ。当時は技術系とIT系は折り合いが悪かったです。技術系から見ると、IT系は仕事は遅くて官僚的で(笑)。なるべく情報システム部門に関わらずに、技術系のITは自分達でやろうと思っていましたね。



黒須:どこの企業でもその傾向はあるみたいですね。それで、実際にITをやられてみていかがだったのですか?



佐藤:IT系の方は、個人個人は皆、優秀な技術者なのですが、生産技術屋的な目から見ると、改善だとか、コツコツとレベルアップしていくところはあまり教育されていませんでした。あ、ここは自分が指導できるなと直感しました。生産の現場と同様に、システムの現場も改善していこうと思いました。



黒須:情報システム部の仕事をされたときには、どういう役職だったのですか?



佐藤:最初は、生産システム部とデジタルエンジニアリング部の部長を兼務しました。その後、開発全体を見る立場になり、前ITインフォメーションシステムズ(以下、ITIS)社長の退任を機に社長になりました。



黒須:わかりました。次にぜひお聞きしたいのは、社長になられてから、ポリシー的なところで以前と変わった点はありますか?



佐藤:働いている人達のモチベーションをいかに上げて、いかに働き甲斐のある会社にしていくかということを一番に考えるようになりました。もちろんそれを通じてトステムの業績にどう貢献するか、ということですけどね。



黒須: より一層、部長の時代に比べてそういう意識が強まったということですか?



佐藤:そうですね。IS子会社というのは非常に難しくて、売上を上げてはいけない、儲けすぎてもいけない。利益が出れば翌年は何らかの形で単価を下げろと言われますし。だからITISの業績はずっと一定なのです。外から見ると、何が褒められる要素か、社員はわからないわけですよね・・



黒須: その中でのモチベーション維持は難しいですね。



佐藤: 会社の業績が伸びれば、自分達が頑張ったからだと実感できるのでしょうけれど、業績は一定だし、外からの評価が何もない。ただひたすら案件をこなしている。ひたすら運用業務に特化している。だからこそ、そこに「改善」を持ち込んで、自分達が改善した結果が、表面的な業績には表れないけれども、実は親会社に貢献しているということを見せていきたいのです。1年半ほどしてようやく、改善することの喜びを皆がわかってくれるようになりました。



黒須: 改善がうまくいった場合、社員に対して社長賞のようなものはあるのですか?



佐藤: 年度毎に審査して表彰する制度を始めました。本当はユーザーから「どうもありがとう」的なものがあればモチベーションも上がるのでしょうけれど、CS調査をすると最初は65点くらいでした。さっき言ったような、情報システム部門の体質みたいなものがありましたから。その中で急にユーザーから感謝されるような仕事をしろと言っても難しいですよね。だから私が最初に取り組んだのは、内部プロセスを改善して、しっかりと足元を固めることでした。「○○のITで貢献した」と言えるようになるのは、その次の段階です。



黒須: ITISの社長になられてどのくらいですか?



佐藤: 2005年10月に就任したので、3年と少しです。



黒須: では最初の1年半で改善の喜びを社員に実感させて、その後2年位で改善がかなり進んだという感じですか?



佐藤: そうですね。それまでは「改善」=「新技術を導入して業務レベルを上げる、コストを下げる」というだけで、日常業務の細かいことを見直すことはほとんどできていませんでした。仕事は、そういう小さい改善と大きな改善の組み合わせで向上していくものなのです。





この図(上記)はITISのオリジナルです。PDCAはどの教科書にも書いてありますが、PDCAだけをぐるぐる回すとモグラたたきの改善に陥りやすいので、必ず標準に戻そうというのが私の考えです。概念が入ってくるので当初は言ってわかる人はなかなかいませんでしたが、後で振り返ってみると、「ああこういうことだったのか」と理解してくれるようになりました。生産現場では4M(Man, Method, Machine, Material)が改善のポイントと言われていますが、システム作りの場合は人(Man)と技術(Method)が主眼になります。人に関しては、テクニカルスキルはもちろんですが、何が無駄なポイントかを見抜けるような、技術屋の感性を上げていくことが重要だと考えています。技術に関しては、集団としての智恵をどう結集させるかということを考えています。これらの活動の結果として、ITISの標準の体系ができあがってきました。体系が確立されたことによって、改善が進んだと考えています。



黒須: 御社の標準化への取り組みは、開発標準やITILなどにもつながっていますね。他企業と比べても、真剣度が高いと思います。



佐藤: 標準がない(バラツキのある)現場ですと、標準化するだけで3割改善できるのです。バラツキがあるところで良い技術を入れても結果が出ないことはわかっているので、標準化した後に、高い目標を設定すればいいのです。その辺が生産技術屋の嗅覚なのかもしれません。  



黒須: 従来とは違う、佐藤社長のやり方に対してとまどいや反発はなかったのですか?



佐藤: もちろん、外から来て何がわかる、みたいな顔をする人はいましたよ。ですから、とにかく一点突破で実績を出しました。反発する人こそ、改善の効果を実感すればその後は自ら動き出し、大きな力になってくれます。



黒須: 情報システムで何十年も従来のやり方をやってきた人になればなるほど、変革に付いていけないと言われますが、当時の社員は若い方が多かったのですか?



佐藤: 改善の中心になってくれたのは課長クラスでした。人事評価の評価項目には必ず方針管理項目を加えて、部門毎のバラツキを見せて、勝った負けたをゲーム感覚で楽しくやっていました。万年ビリだとさすがにプライドが傷つきますから、みんな自然と点数を上げる努力をするようになります。その結果、バラツキが収斂すれば点数が上がっていくということを理解してもらえました。あと、うまくいった要因の一つは、縦割りではなく、いわゆるマトリックス方式で、横串を刺したプロジェクト制を導入したことです。やっぱり縦割りのラインだと絶対にバラツキがでてきますからね。



黒須: マトリックス方式は、けっこう難しいとおっしゃっている企業もいますが?



佐藤: うちは規模的にちょうどよかったのかもしれませんね。当時の人数が500名程で、プロジェクトは8つに絞

り込んでいました。



黒須: なるほど。



佐藤: ところで、これは自分が現場の長になったときに使っていたもので、私のオリジナルです(下記の図)。







業績線と評価線というのがあって、「業績が悪いと評価が怒られる・業績が良くても褒められない」というのがAの線、「業績が悪いと怒られる・良いと褒められる」というのがBの線、「業績が悪くても怒られない・良いと褒められる」というのがCの線です。

Aの線は不具合だとか、例えば工場ですと公害とか労災とか、基本管理項目といわれる事項が該当します。良いのが当たり前で、どんなに良くても褒められない。そのかわり悪化したら怒られます。真ん中のBの線は経営計画やコスト、予算達成の項目です。ここは目標よりちょっと上にいっていればいい。A、Bをほどほどに達成しておいて、Cに該当する項目(大きな改善)を成し遂げられれば、バランスがとれている非常にいい職場ということになります。部下に指示を与える際は、その業務の性質を理解することが大事なのです。これがわからないで、なんでもかんでも部下にやらせようとすると、部下が消化不良を起こしてしまいます。



黒須: 今回アサインした仕事はABCのうちこれなんだよということを明確にするということですね。



佐藤: そうです。改善したい事はBの線(=業績が悪いと怒られる業務)に乗せることができれば現場は動き出すのです。要するに、上司の評価項目の中にその項目を入れてもらえれば現場が動き出します。その項目ができていない人は、「あ、ヤバイ」と思うようになるのです。Cの線(=業績が悪くても怒られない)に乗っている段階だと、全体を動かすことはなかなかできません。この辺のことは相当意識していました。



黒須: ここでおっしゃっている業績というのは個人の業績ですか?それとも組織?



佐藤: 両方に使っています。あくまで考え方ですから。



黒須: 非常に面白いですね。参考にさせていただきたいと思います。マネジメント上はBを多くするということですね。ITISのスタッフの方はみなさんこれを意識されているのですね、すばらしいですね。ところで、IS子会社というところが特徴的な御社の形態となっていますが、基本的には親会社の方針に沿う形となっているのですか?



佐藤: そうです。まずはITコスト比率をある線以下にすることですね。また、基本的な考え方としては、固定費的な運用費をドラスティックに改善して、その分を開発投資にまわしていこうとしています。開発投資は従来ですと部門依頼テーマがほとんどだったのですが、今は親会社の戦略テーマからブレークダウンしてIT戦略をたてています。



黒須: なるほど。私どもの調査ですと、同じIS子会社といってもかなり役割範囲が企業によって違います。御社は親会社の戦略のようなところまで実際に入り込んで、いわゆる上流のIT戦略・企画までやってらっしゃるのですね。その辺の役割は、IS子会社の社員が出向なのか転籍かによって変わってくるところだと思いますが、御社は基本的には出向なのですか?



佐藤: はい。全員出向です。



黒須: 社員の皆さんは、トステムグループの一員という意識をお持ちなのですか?



佐藤: 実はITISができてしばらくすると、やはりユーザーの方もIT ISをベンダーの一つみたいにだんだん見るようになってきまして、うちの社員も言われたとおり作っていればいいや、みたいになってしまいました。でもそれは本意ではないので、そこを立て直してきたのです。



黒須: そうですか。トステムさん本体にはいわゆるIT部門はあるのですか?



佐藤: あります。私はそこを兼務しています。ですからそこと協力して、ITISが前面にでていこうと活動しているところです。



黒須: IS子会社のアイデンティティについては、お悩みの社長さんが多いですね。子会社という別法人なのですから、子会社としてのアイデンティティも大事だということは当然なのですが、グループとしてのアイデンティティもないと、外のベンダーと一緒になっていまいますし、本当のIT戦略といった部分が見えなくなってしまいますからね。御社の基本的な考え方としては、グループ本体と一緒にやっていくということなのですね?



佐藤: もちろんそうです。一体でないと、必ず壁ができてモチベーションは限界に達してしまいますから。



黒須: その辺のところは、私も今まで色々な企業を見てきて、非常にカギになるところだと感じています。御社はうまくやってきているということですね?



佐藤: 完璧ではありませんが、良い方向にいきつつあると思っています。IS子会社という形態にしているのは、トステムだけではなくトステムグループの仕事をする上でやり易いからなのです。モチベーション的には一体になった方がいいのかもしれませんが・・。



黒須: CIOやIS子会社のリーダーを目指している若手に向けて、アドバイスをいただけますか?



佐藤: やはりなんといっても事業会社のトップの意向がよくわかる、あるいはそことのコミュニケーションがとれることが大切です。技術的なことは、ベンダー等を使う力を持てばいいのです。あとは問題が起こったときにどのような体制を敷けばいいかを見極められること、組織力・人脈といったところでしょう。



黒須: その辺のセンスを身につけるにはどうしたらいいのでしょうか?



佐藤: 今の質問が一番難しいですね(笑)。若い頃に失敗しながら色々とやらせてもらっていくうちに、一人でできる仕事には限界があるということがわかってきますよね。やっぱり大きな仕事をして会社に貢献するためには組織でないとだめだと。組織を使って事を成し遂げていく、その方法論というか、自分なりの感性をいかに磨くかということだと思います。



黒須: その辺は暗黙値ですから、なかなか難しいところですよね。



佐藤: 自分の強み弱みはわかってないとダメですね。後輩には、技術屋だったら3年以内に自分の強い分野を1個でもいいから作れと言っています。少なくてもトステムの中で1番になれと。



黒須: それは大事ですね。



佐藤: はい。「この問題ならアイツに聞こう」と皆が思うくらいの認知度を持つような仕事の仕方をすることです。苦手分野を勉強するのは最低限でいいと思います。自分の好きな、 勝負できる分野を強化していくことの方が、より重要でしょう。あとはやっぱり、スピードですね。いかにビジネスのスピードについていくかを考えることです。



黒須: 最後に、これは仕事とは関係ないことですが、どのような趣味をお持ちですか?



佐藤: 今は映画ですね。ヨーロッパ系のミニシアター系が好きです。サスペンスとかSF系とか・・・。で、映画の中に出てくる監視システムとかIT系に目がいってしまいます。これはもう本当に実現できているのかなとか、考えながら楽しんでいます。



黒須: なるほど(笑)。



佐藤: あとは、学生時代から落語が好きですね。



黒須: オチ研にいらしたのですか?



佐藤: はい。実は今でも年に一回、OB会でやっています。



黒須: そのうちぜひ、披露していただきたいです。本日はありがとうございました。

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