第12回:可視化されない価格の妥当性 - 医療費にも似たIT投資

第12回:可視化されない価格の妥当性 - 医療費にも似たIT投資

掲載日:2004年11月25日

執筆者:株式会社スクウェイブ
代表取締役社長 黒須 豊

9 月 13 日、昼間、顧客先へ向かう途中、私の携帯電話が鳴った。
私は、接客中は言うまでもなく、移動中も緊急以外の携帯電話に出ない主義である。私は電車内にあって、マナーモードのままであったが、この日に限って、言い表せぬ胸騒ぎがして電話に出ることにした。
すると、私の母親が脳梗塞で緊急入院したという知らせであった。私は、顧客に挨拶だけ済ませて病院に直行することにした。
母の容態はかなり重症で、言語障害や下肢麻痺が既にあって、生命自体の危機を脱するかどうかも、今後の 1 週間が山であるという医者の話であった。

結果的に、母は完治とは言わないまでも、幸い1ヶ月超の入院生活を経て退院することができた。今はヘルパーの助けは必要とするものの、なんとか自立歩行できるまでに回復した。この場を借りて、お世話になった関係者にはお礼を、またご迷惑をお掛けした皆様にはお詫びを申し上げたい。

ところで、今回の主題である医療費の妥当性について考えてみたい。母が入院した病院からは何度かに分けて請求書が発行され、支払いを行うことになった。ちなみに、9月13 日から月末までの医療費が約36万円くらいであった。

母は点滴や MRI による診断は受けたものの、最も高額な手術を受けることがなかった。果たしてこの金額は高いのか安いのか、私には良くわからないが、何となく漠然と高いと感じた。母は小奇麗な部屋に入院したが、個室ではない。4 人部屋であるにも関わらず、差額ベッド代が一日あたり 5,000 円以上掛かっているらしい。

とにかく、その請求の根拠は漠としていて、何だか全く良くわからない。とにかく、 36 万円掛かったのだという。私は釈然としなかった。その最大の理由は、金額の根拠が全て医療提供者サイドの視点で一方的に決められたものだからである。

提供されたサービス内容の大半は、ユーザーである患者と事前に合意したものでもなければ、提供された期間(入院期間)も、サービス提供者サイドが決めたものである。

さらに、そのサービスの質も価格も妥当なのかどうか、ユーザーである患者には明確に比べる手段がない。だから、何となく値段は高いとしか言いようがないのである。

医療業界は命に関わるサービスを提供している公共性の高い業界だから、 規制もあるし、特殊な世界なのだろう。最近は病院ランキング本などもようやく登場し始めたが、いざという時に、果たしてその選択を委ねるほど十分な情報は 掲載されているかと言えば、まだそこまでは行っていないのが現実だろう。

一方、他の業界はどうだろう。例えば、衣類のクリーニング業界を考えてみよう。いくつも似たようなクリーニング店は存在するし、概ね似たようなサービスを提供している。これだけを考えれば医療業界と大差ないはずである。

しかし、ユーザーは自分の意思によって何の衣類を何処のクリーニング店に依頼するか決定する前に、シャツ一枚から価格、納期、受け取る時間の柔軟性(開店時間と休日)を、各々明確に比較することができる。

実際に、弊社所在地である用賀駅周辺のクリーニング店を何店舗か覗いて みると、聞くまでもなく、大半の店は納期や各々の価格まで掲げている。これなら、シャツは安いがスーツが高い店もあれば、価格は安いが出来上がりが遅い店 などなど、一長一短を吟味できる。このような業界は、正に価格の妥当性が横比較によって可能であり、サービス対価格の可視化が進んだ業界と言うことができ る。

さて、 IT 業界はいかがだろうか?価格やサービス提供に厳しい規制がある医療業界と比べてみても、勝るとも劣らぬほど可視化が進んでいないと言えるのではないだろうか。

私は、何とかしてこの状態を変革したいと考えている。私は、スクウェイブ立ち上げの原点とも言える顧客主導のIT社会を、 3 年間で国内でも実現させたいと考えて事業を開始した。

もちろん、スクウェイブのような小さなベンチャー企業にできることなど 限られている。しかし、私は、多くのユーザーにその本質に気づいてもらうことは可能だと考えている。そうすれば、本来優秀な日本企業は自ら変革する高い潜 在能力を有していることに疑いの余地はない。そのために、私は微力ながらこれからも最大限の努力をするつもりである。是非、少しでもご賛同頂ける皆さん、 ご指導を心よりお願いする次第である。

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